新宿や六本木、赤坂など、地名が有名なエリアで、中国人がマンションを”爆買い”しているというが、公的な統計データがあるわけでなく、”爆買い”の全体像はよく分からない。
中国人のマンションの「爆買い」状況を何とか定量的に把握できないものかと考え、役所が一般に公開しているデータを活用して、中国人のマンションの「爆買い」状況の検証を試みたのが7月4日の「中国人のマンションの『爆買い』を検証してみた」という記事だ。
外国人、特に中国人がどの程度マンションを買い漁っているのか、といった問合せをよく受けるので、今一度調べてみた。
- 中国人によるマンションの”爆買い”情報を伝えるメディア
- 外国人の不動産取引が急増!
- 外国人との不動産取引が「増加していく」理由・背景
- 外国人との不動産取引において困っている点
- 台湾の最大の不動産仲介業者へのヒアリング結果
- まとめ
中国人によるマンションの”爆買い”情報を伝えるメディア
まずは、最近のネットメディアから、中国人によるマンションの”爆買い”記事を確認してみよう。
「晴海のタワーの縦一列、購入できないか」という、投資目的の中国人による、ゲストルームの独占やAirbnbを使って又貸しを懸念する記事。
【都心億ションの中国人「爆買い封じ」に値上げで対抗?】
東京都心部の不動産市況が沸騰する中で、主役の中国人富裕層のシェアを減らそうと各社はすでに動き出している。外国人比率を3割以内に抑えると決めたデベロッパー、その一方で7月から申し込みがスタートする話題のブリリアタワーズ目黒では「あえて投資目的では、利益が出ないような値付け」とも言われる。
(略)
質問は様々だが「晴海のタワーの縦一列、購入できないかという、質問を受けたこともあります」ともいう。高級品、ブランド品などの買い物ならば良いのだが、これがタワーマンションなどの不動産は管理が必要なために、それが厄介でもある。
投資目的で、しかも管理費や修繕積立金を支払う意識が希薄。さらには、ゲストルームの独占はおろか、自室の部屋までも宿泊予約サービスサイトの「Airbnb」(エアビーアンドビー)などを使って又貸しを平気で行い、転売までのコストを稼ぐ、とまったく抜け目がない。(2015年6月1日 ゆかしメディア)
現金で2600万円の中古マンションを購入した上海の女性会社員(43)の情報は、多くのメディアで使い回されている。
多くの中国人がマンションを買い漁っているかのように増幅(誇張)されていないか?
【都内のマンションを現金で即買い!訪日中国人の爆買い加速】
(略)最近では家電や化粧品などの「爆買い」にとどまらず、不動産を購入する中国人も増えている。東京では新宿、六本木、赤坂のほか、2020年の東京五輪に向け価格上昇が予想される豊洲などの不動産が人気だ。
上海から来たある女性会社員(43)は、新宿や池袋の物件を10軒ほど見て回った後、現金で2600万円の中古マンションを購入した。 (略)
(2015年7月4日 レコードチャイナ)
デベロッパーによる「外国人への販売割合2割規制」という情報もネットを駆け巡っている。なかには「3割規制」というのもある。
【中国人ツアーが東京襲来! 不動産爆買いの波、一部で販売上限】
(略)台湾を本拠とし日本にも進出する信義房屋不動産のマネジングディレクター、ケニー・ホー氏(東京在勤)によると、需要があまりに旺盛なため、一部のデベロッパーは新築マンションの外国人への販売割合の上限を定めている。
デベロッパーの中には、外国人への販売戸数が全体の20%を超えないようにしているところもある。(略)(2015年7月27日 SankeiBiz)
六本木、赤坂など、海外でも知られたエリアのタワーマンションを買い漁っているのが台湾人や香港人だという話はよく聞こえてくる。
【中国人、都内マンションも「爆買い」 販売自粛の動きも】
(略)新宿や六本木、赤坂など「地名が有名」なエリアが人気で、五輪開催決定後は豊洲の問い合わせも増えた。
高級マンションを買う人の多くは、海外への現金の持ち出し制限を受けない台湾人、香港人、シンガポール華僑。
だが大陸の中国人も、香港にある銀行を通せば制限を受けないため、「香港経由」でたくさん買っているという。(略)(2015年7月3日 朝日新聞デジタル)
”爆買い”状況が分かる定量的なデータはないのか?
何か手がかりはないか?
ネットをググっていて、全日本不動産協会東京都本部が2015年3月に出した「東京オリンピックと不動産業の関わり」という報告書を発見!
同報告書に「2-2 全日会員調査にみる外国人不動産取引の動向」として、全26ページ(P30-P55)にわたって、会員に対する調査「外国人との不動産取引の実態アンケート」結果と台湾の最大の不動産仲介業者へのヒアリング結果が掲載されているのでひも解いてみよう。
外国人の不動産取引が急増!
2014年12月に実施されたアンケートに回答したのは全日東京アカデミー会員の424社(回答率は不明)。
「会員の外国人との不動産取引を開始した年」のグラフが掲載されているのだが、どうもピンとこない(次図)。
「東京オリンピックと不動産業の関わり」(P31)より
上図のデータをもとに、外国人との不動産取引を開始した「累計会員数」を計算し、描き直したのが次図。
ここ数年、外国人との不動産取引を始めた会員が急増していることが一目瞭然であろう。特に、2008年以降の増加が著しい。
だからといって、中国人がマンションを”爆買い”している証拠には直結しないのだが。
外国人との不動産取引が「増加していく」理由・背景
会員アンケート結果には、「外国人との不動産取引が『増加していく』と考える理由・背景」として、以下が掲げられている。
「東京五輪開催の決定」「円安で投資増加」「日本不動産市場の安定性への高評価」など、巷でよく言われていることが、あらためて確認できる。
- 実務での実感
- 問い合わせ件数の増加
- 成約件数の増加
- 日常業務上の経験
- 国内事情
- 東京五輪開催の決定
- 円安で投資増加
- 日本不動産市場の安定性への高評価
- 政府の観光立国政策などの影響
- 海外事情
- 海外の経済事情(中国マネーの増加)
- 海外不動産市場(日本市場との比較)
外国人との不動産取引において困っている点
会員アンケート結果には「外国人との不動産取引において、現在困っている点」として、次の5項目が掲げられている。
- 言語面の課題
- 契約時等の手続き・慣習の違い
- 生活マナー・慣習の違い
- 費用面の課題
- その他
マンション住人にとって気になる「生活マナー・慣習の違い」について、その内容も掲げておこう。
- 物件や設備の使用方法・清掃状況
- 室内での土足利用
- 設備を勝手に外す(網戸、消火器など)
- ゴミ出しルール
- ゴミ出しルールを理解せず管理組合や近隣ともめた
- 騒音等
- 日常生活で何かと物音が大きい
- 入居人数や出入り人数の極端な増加
- 入居人数を守らない(4人入居に実際は40人いた)
- 友人の出入りが極端に多い
- 時間や約束事への遵守
- 時間の概念(待ち合わせ時間、〆切、支払い期日など)がない人がいる
- 商習慣の違い、コミュニケーションの違い
- 頻繁に帰国する、などで交渉やコミュニケーションが難しい
- 印鑑のない人が多い(各種日常生活での手続きで利用)
- 仲介業者を通さず、オーナー・売主に直接交渉する
- 支払いの滞納・未払い
- 賃料支払いがずれる、滞納する
- 公共料金を滞納する、支払わずに帰国する
ゴミ出しルールを守らないとか、騒音問題とかは想定の範囲内だが、「入居人数を守らない(4人入居に実際は40人いた)」というのには驚かされる。
次に、台湾の最大の不動産仲介業者へのヒアリング結果をひも解いてみよう。
台湾の最大の不動産仲介業者へのヒアリング結果
台湾の最大の不動産仲介業者の社名は記されていないものの、台湾での「30年以上の実績」や台湾国内での「直営店420店舗」といった数字から、ヒアリング相手は信義房屋仲介公司(日本法人は、信義房屋不動産株式会社)であることが容易に想像できる。
日本での成約件数は、毎年増加しているという。
日本法人創立以降、成約件数は毎年増加し、2010 年 51 件、2011 年 123 件、2012 年 173 件、2013 年上半期で 450 件の成約数となっている。
グラフにしてみると、2013年上期に成約件数が急増していることがよく分かる(次図)。
2013年上期(450件)だけでも、2012年(173件)と比べて160%の増加だ。
2014年、2015年はいったいどれくらい増えているのだろうか――。
また、同社へのヒアリング結果からは、中国人富裕層が都心のマンションを中心に、億単位の物件を取引している傾向がうかがえる。
湾岸エリア・晴海エリアの人気が高い反面、首都直下地震を懸念する客層からは、臨海部ではなく山の手エリアの取引がほとんどだという。
(9.以下、省略)
- 取扱い物件は、マンションが中心であること
- 日本の不動産の資産性・利回り性・相場観の安定性、日本不動産のブランド感・ステータスへの評価が高いこと
- 成約物件所在地は西新宿エリアと都心 3 区に人気が集中していること、成約地区は都心 3 区と新宿区が中心で、年によって成約件数割合が変化するものの、これはあくまで新築物件が販売される年・地区に影響されるためで、この 4 区における人気の差異が特別あるわけではないこと
- 東京オリンピックの影響としては、湾岸エリア・晴海エリアも人気が高く、晴海エリアはオリンピック開催以外に、築地市場の移転による人気傾向もあること
- リスク回避のために都心の賃貸しやすい物件が人気であること
- 東京での首都直下地震を懸念する客層からは、臨海部ではなく山の手エリアの取引がほとんどであること
- 東京以外の地方物件購入には取引が慎重であること
- 不動産購入者は富裕層が多く、億単位の物件取引が中心であること
まとめ
外国人、特に中国人が東京オリンピック需要を見越してマンションを買っていると言われているが、その実態はどうなっているのか?
台湾の最大の不動産仲介業者へのヒアリング結果から次に示す状況が明らかになった。
- 2008年以降、外国人との不動産取引を開始した不動産業者急増している。
- 2013年以降中国人による成約件数が急増している。2013年上期だけでも、2012年と比べて160%増加している。
- 台湾人富裕層による億単位の物件取引が中心。東京オリンピックの影響としては、湾岸エリア・晴海エリアの人気が高い。
以上は、台湾の中国人による”爆買い”状況であるが、大陸の中国人が台湾経由で”爆買い”している可能性も含まれている。
(本日、マンション広告なし)
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