不動産ブログ「マンション・チラシの定点観測」

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死亡事故が発生したマンション 手付金を放棄せずに契約解除できるか


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<マンションの建設現場の写真>本文とは関係ありません。


8月22日金曜日‎午後7時ごろ、基礎工事中に死亡事故を起こした大規模マンション。
30歳とキューバ国籍の29歳の2名が死亡、40代の1人が重傷。
束にして立てておいた、長さ4m・1本あたり42kgの鉄筋約220本が突然傾き、途中で束がばらばらになり作業員らの方へ倒れて、1人は難を逃れたが、3人が下敷きになったという。
報道内容が本当だとすれば、たとえ鉄筋を束ねていたとはいえ、なぜ立てかけられていたのか?
重機がぶつかったり、地震が来たりと、何かの拍子で鉄筋の束(約9トン!)が倒れて、重大な事故になることは容易に想像できるし、まともな監督員が現場にいたのであれば、そのようなことは決してしない。
疑問の二つ目は、なぜ竣工(平成27年8月中旬)までまだ1年もあるのに、なぜ日没後の夜7時まで作業をしていたのか?
それだけ工期がタイトだったのか?
そもそも近隣住民と交わした工事協定書で、作業時間は午後5時30分以降も認められていたのか?


閉鎖していたホームページは、3週間も経たないうちに再開。
何もなかったかのように第4期の「予告広告」が掲載されている。
すでに契約していた人たちは、このマンションの資産価値の低下が気になるところだろう。


建設中に死亡事故が発生したマンションの手付金を放棄せずに契約解除できるか?

結論を言えばノーだ。
建築中マンションの労災死亡事故に伴い、売主は最上級の安心感、高級感等の性能品質等を有するとしたマンションを引渡す義務を履行できないとして、手付金等返還を求めた買主の請求を棄却した事例(東京地判 平23・5・25)が参考になるので、以下にひも解いてみよう。

建築中のマンションのエレベーターシャフト内で作業員の死亡事故があったことにより、売主は、最上級の安心感、高級感等の性能、品質等の引渡し義務を果たせなくなった等として、買主が手付金の返還等を求めた事案において、社会通念上、同マンションには買主がその目的を達せられないほどの瑕疵は認められず、また、市場価格が減少したともいえないなどとして、買主の請求を棄却した事例。

都内に建設中のマンションを1億3,420万円(億ション!)、手付金1,342万円で売買契約を締結した買主(X)が、エレベータシャフト内で作業員の死亡事故を受けて提訴。
提訴のポイントは次の2点。

  • マンションのエレベーターを利用するたびに強い不快感を抱き、居住すること自体に精神的苦痛を感じ、さらに、市場価値も下落し、これを回避することができないものとなったこと。
  • 手付金額に相当する1,342万円(10%)と精神的な苦痛を受けたことによる慰謝料として200万円。

これに対する判決の要旨は―

当該部分で凄惨な殺人事件が起こったなど、社会通念上、忌むべき事情があり、一般人にとっても住み心地の良さに重大な影響を与えるような場合のように重大な心理的な瑕疵がある場合など。)を含むと解され、単に買主が主観的に不快感等を有するためにそのような目的が達せられないというものではこのような瑕疵があるとはいえない
そこで本件について検討するに、本件事故に関し本件マンションの住み心地の良さに重大な影響を与えるような情報やそれらの価値を貶めるような情報が流布しているなどといった事実も認められないことに照らせば、本件建物に、社会通念に照らし、上記のような瑕疵が存在すると認めるに足りない。

ということで、「本件建物の市場価値が減少したと認めるに足りない」とされた。
さらに、マンションの案内書で最上級の形容詞で期待感を持たせているのは購入を勧誘するための文言に過ぎないので、「そんなこと本気で受け止めてはだめよ」といったのが次の判決文章(意訳しすぎか)。

X(買主)の期待感を保護すべき義務の不履行についても、この期待感が毀損されたと認めるに足りない。
Y(売主)らは本マンションの案内書において「フラッグシップ」等の最上級の形容詞を用いてXに期待感をもたせる建物であることを謳っているが、これは本件建物等の購入を勧誘するための文言に過ぎず、Xの期待感等を殊更保証するものとは認められず、売買契約書や重要事項説明書においても一般的マンションとして通常備わっている価値を超えてXの期待感を殊更に保証しているとは認めるに足りない。
この点においても、本件建物ないし本件マンションの立地、物理的な性能及び品質などのこれら高級性において重要である点については、前記のような価値や期待感が毀損されているとも認められない。

マンション建設中にお亡くなりになった方々のご冥福をお祈りいたします。
鉄筋が倒れた建築現場を調べる消防隊員ら(C)MSN産経ニュース
<写真:鉄筋が倒れた建築現場を調べる消防隊員ら(C)MSN産経ニュース

(本日、マンション広告1枚)

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