不動産ブログ「マンション・チラシの定点観測」

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マンション広告に見る”販促ワザ”、ワースト10(ハード編)


マンションチラシの“定点観測”を始めて、来月で10年になる。この間に見てきたチラシは4,700枚を超える。
「無料」や「プレゼント」、「エコ」や「防災」といった、消費者の気を引くキーワードが散りばめられたチラシの多くには、消費者のためのというよりも、売主本位の“販促ワザ”が秘められている。
モデルルームに集客するための「クオカードプレゼント」程度ならば大したことはないが、“販促ワザ”のために設けた施設や設備(ハード)が、将来の維持管理費や修繕費に影響が及ぶとなると看過できないだろう。
あくまでも筆者の独断であるが、過去10年間に“観測”された「販促ワザ・ワースト10(ハード編)」を以下に示そう。


1位:別荘付きマンション(2007年5月23日)

大手町駅26分(途中乗り換え)、敷地の南に河川を臨む総戸数820戸、3棟(17階建+14階建て+18階建て)からなる大規模マンション(平成20年1月下旬・7月中旬竣工)。
JR駅からバス15分+徒歩1分。あまりにもバスの便が悪すぎたのか、「居住者専用のシャトルバス」を導入。でも、「大型バス」の「シャトルバス」とはいえ、総戸数820戸もの通勤・通学時間帯の人数をさばけるのか。
さらに、「マンション業界初、附属施設として別荘を那須高原にご用意」。
この別荘も駅からバス60分と遠い。車で出かけるのなら、わざわざ1泊2,000円の附属施設に行かなくても、他に快適な宿がいっぱいあるだろう。しかも、この別荘は、3棟しかないから、総戸数820戸の住民が使いたいときに使えるとは限らない。
維持管理費を食いつぶす「シャトルバス」や「別荘」で、マンションの差別化を図るというとんでもない販促ワザで第1位。

2位:超高層のお犬様マンション(2012年6月16日)

湾岸の超高層マンション群エリアの外れに建つ、総戸数585戸、43階建の超高層マンション(平成26年1月竣工)。
2層吹き抜けの「ソラプラザ」が6カ所(41階、36階、30階、24階、18階、12階)あることや、3階にキッチンスタジオ・ライブラリー・コミュニティセンター・茶室があることなど、今更ながらのバブリーな計画はともかく――28階に設置された3層吹き抜けの「ドックラン」には驚いた。お犬様のためのリッチな人工空間。
愛犬家でない人たちも、この「ドックラン」に係る建設費や維持管理費を負担しなければならないのだ。

3位:天然温泉付き超高層マンション(2005年4月10日)

銀座1丁目駅直通8分、駅徒歩7分、総戸数440戸からなる、天然温泉付きの44階建ての超高層マンション(平成19年3月竣工)。
温泉はたまに入るから有り難味がある。毎日となると感激しなくなるのは人の常だ。50インチの大型プラズマTVだって、1週間もすれば見慣れてしまうし、高級寿司だって毎晩では飽きてしまうだろう。
では、カラダにいいのかといえば、地下1,000mの深さかさから無理やりくみ上げた「天然温泉」だから、泉質はどこにでもある「ナトリウム−塩化物温泉」だ。効能としては、一応、冷え性、疲労回復、健康増進が掲げられているのだが――くみ上げた「天然温泉」に水道水を混ぜて利用するのだから、効能もさぞ薄まっていることだろう。
しかも、よく考えてみれば、「天然温泉」があふれる湯船にゆっくりつかるのは、肌寒くなる秋から冬にかけてではないだろうか。少なくとも夏はシャワーで済ます人も多いはずだ。なのに、「天然温泉」の水質管理やポンプの動力費など、毎月の維持管理費用を負担しなければならない。
しかも44階建ての超高層マンションだから、1階から44階の高さまで「天然温泉」を供給する共用設備としての母管が走ることになる。共用設備とはいえ、高層階の住人のための配管の維持管理費用を専有面積の比率で負担すると知ったら、低層階の住人は、とても理不尽に思うに違いない。
また、水道配管とは別に、「天然温泉」専用の配管が余分に必要となるので、そのぶん確実に工事費を上昇させている。

4位:岩盤浴付きマンション(2007年3月2日)

敷地の南側を鉄道が走る、上野駅29分(途中、特別快速乗り換え)、駅徒歩5分、総戸数424戸、15階建ての大規模マンション(平成20年3月竣工)。
アジアンテイストの「岩盤浴」の癒しが売り。1時間700円の岩盤浴。最初の物珍しい時期はともかく、将来に渡っての利用率はどうか。
駅の南側には、4カ月前に女性専用の岩盤浴(20床)の店が開店している。90分で1,500円。早朝(6時〜9時)は、半額(750円)。朝の6時から夜の23時30分まで、1年中利用可能だ。
このマンションの岩盤浴施設は、チェーン展開している民間の岩盤浴サービスとの競争に生き残ることができるのか――。

5位:ホタル飼育施設を併設したマンション(2007年7月2日)

兵庫県宝塚市に建つ、6階建て、総戸数30戸、ホタルを飼育する施設を併設したファミリー向けの分譲マンション(平成19年11月竣工)。
ホタルを育てる約20m2の施設をエントランスの横に設置。池や樹木などを配置し、池には水の流れをつくり、300〜400匹のホタルを幼虫から育てられるという。
飼育施設への投資額は100万円強。総戸数30戸だから、1世帯あたりの負担は33,000円(≒100万円÷30戸)だから、大したことはない。
でも、ホタルはキレイな水にしか棲み得ないから、将来にわたる水質管理など、手間と費用がバカにならないかも。

6位:風力発電設備のあるマンション(2010年2月5日)

東京駅直通16分(快速利用)、大手デベロッパーが供給するバス8分+徒歩1分の、総戸数550戸、5棟(14階建×2棟+11階建×3棟)からなる大規模マンション(平成23年1月竣工)。
「3基で年間約1,800kWh」を「共用部の一部に利用」するとされているが、1,800kWhの電力量とは40Wの蛍光灯にすれば、たったの15本分(毎日8時間使用した場合)でしかない。
※15本=1,800kW÷0.040kW÷8時間÷365日
最大出力1.5kW、定格出力1kWだから、ヘアドライアーのターボモードの電力を賄うのもおぼつかない能力だ。
風車の維持管理費を負担するのは住民だし、騒音や振動音が問題になった時に困るのは住民だ。
また、風車の法定耐用年数は17年(減価償却資産の耐用年数等に関する省令 別表第二/機械及び装置の耐用年数表/31電気業用設備/その他の設備 主として金属製のもの)。マンションの寿命よりもはるかに短い。
新エネのモニュメントや教材として導入されるのであればまだしも、「つくるエコ」としてマンションに導入することはとってもナンセンスだ。

7位:サイクルポートの屋根が緑化されたマンション(2009年4月24日)

準工業地域、運河沿いの寂しい敷地に建つ、大手町駅直通9分、駅徒歩7分、総戸数262戸、17階建ての大規模マンション(平成22年3月竣工)。
敷地配置図を見ると、マンションの屋上が緑化されているだけでなく、サイクルポートの屋根面も青々と植栽された状態であることがよく分かる。
このマンションが建つ「△△区みどりの条例施行規則」により「基準緑地面積(=敷地面積×法定建ぺい率×緑化率(0.2))」以上の面積を屋上緑化することが求められているのだ。
緑化率は2割でいいのに、しかも努力義務(必ずしも従う必要はない)なのに、このマンションのサイクルポートの屋根全面を緑で覆っている。サイクルポート屋根面の緑化という奇策。
このサイクルポートの屋根面の緑化を眺められるのは、マンションの北側廊下を歩く人。
そもそもサイクルポートはマンションの北側にあるから、日当たりが悪い。青々とした植栽など期待できない。雑草除去や施肥などの維持管理費用を負担するのは、売主ではなく、もちろん住民だ。将来、苔むした、あるいは枯損した屋根面をさらすことにならなければよいが・・・・・・。

8位:花粉やホコリを除去するエアシャワーが付いたマンション(2009年1月23日)

日本橋駅直通49分(特急利用)、駅徒歩4分。総戸数507戸、5棟(14階建×3棟+10階建×2棟)からなる、千葉県郊外に建つ大規模マンション(平成21年2月竣工)。
チラシには「敷地内に便利なコンビニエンスストア」があるとか、「花粉やホコリを除去するエアシャワー完備」など、建物の品質とは関係のない情報しか掲載されてない。

9位:浴室テレビ付きマンション(2007年8月23日)

大手町駅直通11分、駅徒歩12分、総戸数25戸、9階建ての小規模マンション(平成18年12月竣工)。
浴室に10型のテレビが「標準装備」されている。
チョット想像力を働かせれば分かると思うのだが、液晶ディスプレイの保証期間は、せいぜい1〜3年。液晶パネルやバックライトなど、特定の部品については、たったの1年間しか保証されていない。しかも、その1年の保証期間内であっても、液晶パネルの劣化やバックライトの輝度低下については保証の対象外としているメーカーがほとんどだ。
だから湯船に浸かって、ゆったりとした気持ちでテレビを楽しめるのは、入居当初の数年間でしかない。シェル浴槽の出っ張りに子供を座らせてテレビアニメを見せられるから、子供をお風呂に入れやすいというメリットはあるかもしれない。
でも、10年後には、輝度が低下して見づらくなった画面を睨んでいるか、あるいは壊れて無用の長物となったディスプレイを眺めながら、シェル浴槽の出っ張りに腰掛けて、子育ての時代の名残を懐かしむことにならないだろうか。


10位:電気自動車の充電設備が付いたマンション(2012年4月13日)

大手町駅直通20分、駅徒歩10分、総戸数252戸、テニスコート跡地に建つ3敷地・3棟からなる、専有面積の小さい(狭い)大規模マンション(平成24年12月竣工)。
電気自動車充電専有スペース(1台分)を持つ、このマンションの駐車場設置台数は130台。
たった1基の充電設備で、どの程度の台数がさばけるのか気になるところだ。
現在のEV車の普及割合は少ないので、たった1基の充電設備でも問題ないのだろうが――低炭素社会作り行動計画では「2020年までに新車販売のうち概ね2台に1台の割合で次世代自動車を導入」としているので、EV車が普及するにつれ、1基の充電設備で賄えない可能性は高い。
そもそも、1台を充電するのに、どのくらいの時間がかかるのか?
このマンションの充電設備がイメージ・イラスト通り、ポール型普通充電器だとすれば、充電時間に約7時間(航続距離160km)もかかるので、週末のドライブに出かけたいEV所有者1名のニーズしか満たすことができない。
仮に急速充電タイプだとしても、充電時間に約30分(航続距離160km)かかるから、勤め人は、金曜の夜から順番を待ちながら充電しなければならないから、なんとも不便極まりない。
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