不動産ブログ「マンション・チラシの定点観測」

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マスコミが伝えない、新築マンションの過剰供給問題


昨日のブログで、朝日新聞が新年早々「マンションのスラム化問題」を取り上げていることを記した。
マンションのスラム化問題は、建物自体の老朽化と少子高齢化に伴う空き家の増加に加え、新築マンションの過剰なまでの供給といった複合的な原因によるものだ。


国土交通省のデータによれば、平成24年末現在の「全国のマンションストック戸数」は約590万戸(居住人口約1,450万人)にも達している。
全国のマンションストック戸数
不動産経済研究所が2013年12月19日に発表した「2014年の首都圏マンション市場予測」によれば、数年前よりは勢いが落ちたとはいえ、次図のように年間5万戸前後の新築マンションが供給されると予測している。
新築マンション供給戸数(首都圏)_予想と実績
朝日の記事では、建物事態の老朽化と少子高齢化に伴う空き家の増加による「限界マンション問題(街中の限界集落)」を取り上げているが、新築マンションの過剰供給問題にまでは踏み込んでいない。


元旦の全国5紙の全面広告のスポンサーを調べると不動産関係の割合は、各紙とも15%前後を占めている(元旦の全国5紙、全面広告の内容を調べてみた)。
新聞社の主要なスポンサーのひとつが不動産業界であることが、新築マンションの余剰供給問題の扱いの筆を鈍らせているのだろうか・・・・・・。


政治家や有識者を含め、新築マンションの過剰供給問題に言及して得する人は少ないうえに、内容的にも複雑な問題をはらんでいるので、一般の人が知るチャンスは少ない。
ただ、この問題に対して鋭い指摘をしているいくつかの良書が出版されている。
マスコミに代わって、マンションのスラム化・過剰供給問題が分かる6冊(うち3冊は絶版)を以下、新しい順に紹介しよう。
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三浦 展著「東京は郊外から消えていく!」
1985年新潟県生まれ。元パルコの情報誌『アクロス』編集長、現カルチャースタディーズ研究所主宰者。東京の都市・郊外のあり方を提言した新書。


「女性の社会進出」「人口減少」「高齢化」「結婚しない団塊ジュニア」によって、郊外の物件が値下がりする。
しかし、都心まで1時間かかるような物件には魅力がなく、郊外には今後どんどん空き家が増え、住宅地がゴーストタウンになっていくという。
団塊世代のために建設された住宅ストックは次第に余っていき、空き家が増え続け、団塊世代の高齢化とともにニュータウンだった住宅地がオールドタウン化するだけでなく、空き家だらけのゴーストタウンになる危険性が増大する可能性を指摘している。
悲観的な話ばかりではなく、最終章では「郊外をゴールドタウンにする方法」を提言している。詳しくは本書で。

東京は郊外から消えていく!  首都圏高齢化・未婚化・空き家地図 (光文社新書)

東京は郊外から消えていく! 首都圏高齢化・未婚化・空き家地図 (光文社新書)

米山 秀隆著「空き家急増の真実―放置・倒壊・限界マンション化を防げ」
1963年生まれ。富士通総研経済研究所主任研究員(経済政策や住宅・土地政策などが専門)。空き家急増の実態と対策がまとめられた単行本。


戦後の住宅政策では、住宅不足を解消するため、住宅の自力取得や賃貸住宅の新規供給を促す政策が中心であったが、人口が減少し住宅が恒常的に余る時代においては、適切な施策とはいえないとしている。
空き家問題は1戸建てだけの問題ではなく、管理組合が機能できなくなると、マンションはスラム化し、「限界マンション」になると指摘している。
最終章では、新築を抑制し、これ以上住宅ストックが過剰にならないように、これまで新規供給を増やすために講じられてきた税制上の優遇措置などの施策を段階的に縮小し、中古住宅の活用を促す施策を講じるべきであると提言している。


富士通総研のホームページ「米山 秀隆 レポート」から「自治体の空き家対策と海外における対応事例」や「空き家率の将来展望と空き家対策」などが読める。

空き家急増の真実―放置・倒壊・限界マンション化を防げ

空き家急増の真実―放置・倒壊・限界マンション化を防げ



山下 努著「不動産絶望未来 ―これからの住宅購入は「時間地価」で探せ!」
1963年生まれ。朝日新聞「AERA」編集部の経済記者。
不動産・住宅業界を20年近く取材してきた筆者の気づきによる「これからの住宅は『時間価値』で探せ!」という家選びの新法則がまとめられた単行本。


ローンを払い続けている人にとって、マイホームはそこから一生抜け出せない塩漬けの「未来拘束装置」。
持家は一定期間、住居というサービスを提供するものに過ぎず、30年でマイホームの価値がほぼゼロになったころ、やっとローンを払い切り、金融機関の住宅の担保権が外れるに過ぎない。
頭金プラス金利込の住宅ローンの返済(みなし家賃)は本当に賃貸よりもお得なのかという問いかけ。
住宅・不動産記者は業界寄りの立場の人が多く、本書のようにマクロ経済と結び付けて分析する人が少ないとしている。

不動産絶望未来 ―これからの住宅購入は「時間地価」で探せ!

不動産絶望未来 ―これからの住宅購入は「時間地価」で探せ!



山岡 淳一郎著「狙われるマンション」※絶版
建て替えは儲かる。だから第三者が侵入する。管理組合は素人集団。ノンフィクション作家(1959年生まれ)による、全国の現場を歩いた警鐘と希望のルポ。


耐震偽装事件を経て、鳩山政権(2009年9月から2010年6月)の時代に出版された単行本。
現在の時代背景とは若干異なるが、日本の住宅ローンは担保を処分しても借金が残る「リコース(借主責任遡及型)」であることの問題点の指摘はいまでも生きている。
借金地獄から逃れるためには「自己破産」しかない。
一方、米国などの先進国は担保を差し出せば借金が消える「ノンリコース(借主責任限定型)」が主流。平たく言えば「質屋型」。
お金が返せなければ、質草が流されて、それでおしまい。
彼我の違いは、1930年代の大恐慌下、担保物件競売後の不足額の請求を制限・阻止する「アンチ・ディフィシェンシー・ロー(anti-deficiency law)」が施行され、各州でノンリコースが実現していった米国に対して――日本の場合は、戦後の住宅不足を解決するためには担保価値を考えることよりも建設を促進したい、そのために長期低利の資金を融通すると同時に国民のタンス貯金も動員したこと。
日本の住宅ローンが「リコース(借主責任遡及型)」なのは、戦後の「建設を促進したい」がために「国民の生命を借金の形にとった」ということに端を発していて、現在も改められていないのだ。

狙われるマンション

狙われるマンション



平松 朝彦著「亡国マンション」※絶版
1級建築士、サスティナブルマンション研究会代表。
2005年11月に発覚した「マンション耐震偽装事件」の直後(2006年1月)に発刊されたペーパーバック。


本書が出版されてから8年が経過しているが、「マンションの維持管理が破たんする理由」や「みんな知らんぷりしてきた『大規模修繕』」の問題はいまでも根本的には解決されていないし、「日本の住宅ローンは単なるサラ金」とか「マイホーム主義は、第2の地租改正だった」という指摘は今でも生きている。

亡国マンション The Truth of Defective Condominiums (光文社ペーパーバックス)

亡国マンション The Truth of Defective Condominiums (光文社ペーパーバックス)



江波戸 哲夫著「亀裂――老朽化マンション戦記」※絶版
1946年生まれ、ノンフィクション作家による長編情報小説。


築20年、50世帯のマンション建て替え計画が浮上し、住民同士の攻防戦において、それぞれの家庭の事情が明らかになっていく。
現実的な社会問題と、根幹となる人間が活写されているので、マンションの老朽化・建替え問題を自分のことのように具体的にイメージできる。

亀 裂――老朽化マンション戦記 (光文社文庫)

亀 裂――老朽化マンション戦記 (光文社文庫)



以上、マスコミに代わって、マンションのスラム化・過剰供給問題に言及している6冊(うち絶版3冊)を紹介した。
朝日新聞出版は最近(1月10日)、沖有人著「タワーマンション節税! 相続対策は東京の不動産でやりなさい (朝日新書)」という新書を出版した。
マスコミは儲かる本を出せばいいというものでもなかろう。

(本日、マンション広告なし)



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2023年6月1日、このブログ開設から19周年を迎えました (^_^)/
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